「新型コロナウイルス」の感染拡大で、あらゆる物事のおける消費者の感情が変わり、日々の生活・行動に大きな影響を与えています。
今回は「Keyword map for SNS」を使用し、日本での「新型コロナウイルス」の感染拡大前の2020年1月と感染拡大中の2020年3月を比較し、消費者の心情の変化を調査しました。
結果として、圧倒的に消費者の心情はネガティブに働いていることが分かりました。食品やトイレットペーパーの買い占めによる怒りの感情、感染拡大防止のためにやむを得ず失業・休業になった場合のあらゆる支払いへの恐れの感情が増大しています。一方で、お酒やゲームなど自宅の中でも楽しむことができるものは今までよりもポジティブな感情が増加しています。不安な毎日だからこそ、エンターテインメントはより消費者の心を温かなものにしていることが分かりました。
調査方法
今回の調査には弊社ツール「Keyword map for SNS」を使用しています。
主に下記3項目について調査しました。
・特定ワードにおけるツイート数の推移
2020年1月1日から2020年3月31日までの特定ワードが含まれるツイート数の推移を調査し、話題性がどれほど変化したかを調査しました。
・特定ワードにおけるツイートのワードクラウド
2020年1月と2020年3月におけるワードクラウドの比較を行いました。ワードクラウドとは、特定ワードを含むツイートの中でエンゲージメントが高いツイートによく含まれるワードをマッピングした図です。これによって、特定ワードと一緒にどんなワードが呟かれ、エンゲージメントを獲得したのかが分かります。1月と3月で比較し、話題となったワードの変化を読み取ります。
▼サンプル【「SEO」を含むツイートのワードクラウド(2020年3月)】
・特定ワードにおけるツイートの感情分析
2020年1月と2020年3月における特定ワードを含むツイートの感情分析を行いました。弊社が開発したテキストから感情を判定するAIを用いて、人の気持ちを把握する上で欠かせない6つの感情を分析します。(参照:https://www.cinc-j.co.jp/news/1843/)これによって新型コロナウイルスの感染拡大の影響でどのような感情が増大しているのかを調査いたします。
ネガティブ感情が増加したワード
ネガティブ感情が増加したワードには「生命保険」「損害保険」「建設」「マンション」「不動産」「食品」「ペーパー」がありました。
感染対策のため休業や失業をせざるを得ない状況になり、経営難や収入減に陥り「不動産」や「生命保険」「損害保険」に対する「恐れ」の感情が増大しています。
また、デマや外出自粛等に伴って発生した買いだめ需要により、「食品」や「ペーパー」が購入できないという「怒り」の感情も増加していることが分かりました。
東京オリンピックに関連し、新しい国立競技場などの施設の「建設」、「マンション」になる予定の選手村の話題も多く見られます。
下記に、それぞれのワードの調査結果をまとめました。
「不動産」
「不動産」を含むツイート数は、新型コロナウイルスの影響による増減は見受けらませんでした。
ただし、1月と3月の話題となったツイートを比較すると、「不動産仲介」「不動産業」「捨て値」「投げ売り」「暴落」「失業者」「困窮」「経済危機」「家賃」といったワードが含まれるツイートが増加しています。「株価」の「暴落」により、「物件」の「価格」が下がり、最終的にはリーマンショックの時のように「捨て値」での「投げ売り」が発生するのではという懸念が発生しています。また、休業・失業で「収入」が減る人が増え、「家賃」の支払いが難しくなり「不動産業」「不動産仲介」が大きな打撃を受ける懸念も発生しています。
感情分析の結果として、「恐れ」の感情が1月と比較して増加していることが分かります。
▼図1【「不動産」を含むツイート数の推移】
▼図2【「不動産」を含むツイートのワードクラウド 左:2020年1月 右:2020年3月】
▼図3【「不動産」を含むツイートの感情分析結果 左:2020年1月 右:2020年3月】
「生命保険」
「生命保険」を含むツイート数の推移からは、新型コロナウイルスの影響によるツイート数の増減変化は見られません。
ただし、ワードクラウドを比較すると話題の変化を読み取ることができ、「保険金」「家業」「倒産」などのワードを含むツイートが増加しています。新型コロナウイルスに感染した場合に「保険金」は降りるのかといった疑問や、もし「家業」が「倒産」してしまったらという不安の声が見られます。
さらに新型コロナウイルスの流行の影響で、もし自身が感染してしまったらという不安や、不景気により金銭的に余裕がなくなってしまったら、という恐れの感情が3月は大きくなっていることが、当該ツイートの感情分析の結果にも現れています。
▼図4【「生命保険」を含むツイート数の推移】
▼図5【「生命保険」を含むツイートのワードクラウド 左:2020年1月 右:2020年3月】
▼図6【「生命保険」を含むツイートの感情分析結果 左:2020年1月 右:2020年3月】
「損害保険」
ツイート数の推移からは、新型コロナウイルスの影響によるツイート数の大きな増減は見られません。
ワードクラウドを比較すると、「再保険」などワードを含むツイートが増加しています。新型コロナウイルスの感染拡大という不慮の事態において、保険会社は巨額の保険金が必要になると考えられます。その結果、保険会社が経営上の影響を抑えるために加入する再保険の重要度が再認識されています。
「生命保険」同様に「損害保険」に関しても、1月よりも3月のほうが恐れの感情が増大していることが分かります。
▼図7【「損害保険」を含むツイート数の推移】
▼図8【「損害保険」を含むツイートのワードクラウド 左:2020年1月 右:2020年3月】
▼図9【「損害保険」を含むツイートの感情分析結果 左:2020年1月 右:2020年3月】
「食品」
「食品」を含むツイート数の推移を調査した結果、2月27日ごろの数日間で一時的に増加、そして3月26日にも急増していることが分かりました。2月27日は「トイレットペーパー」の買い占めが生じたことにより、食品においても同様に在庫がなくなるのではないかという不安のツイートが多く見られました。そして3月26日は東京都知事より週末(3月28日/29日)の外出自粛の呼びかけがあったことにより、多くの人が食品をスーパーにて購入し、棚から物がなくなる事象が発生したことが、ツイート数が急増した理由と考えられます。
3月のワードクラウドを確認すると、「スーパー」「ない」「店頭在庫」「大量消費」「買い占め」といったワードでのつぶやきが多く見られます。また、この影響は「加工食品」「パスタ」「ご飯」のような一定期間保存して食べることができる食品から、「野菜」「卵」のような長期間日持ちがしない生鮮食品まで多岐に渡ることが分かります。
1月と3月の感情分析結果を比較すると、「恐れ」や「怒り」の感情が増大しています。必要な食品が購入できないことへの「恐れ」や大量に買い占める人に対しての「怒り」によるものと考えられます。
▼図10【「食品」を含むツイート数の推移】
▼図11【「食品」を含むツイートのワードクラウド 左:2020年1月 右:2020年3月】
▼図12【「食品」を含むツイートの感情分析結果 左:2020年1月 右:2020年3月】
「ペーパー」
「ペーパー」を含むツイート数の推移を調査した結果、2月27日ごろより急増していることが分かりました。2月27日の増加は「トイレットペーパー不足になる」というデマから「トイレットペーパー」の買い占めが生じたことによるものでしょう。
3月のワードクラウドを確認すると、「デマ」「買い占め」「ない」「マスク」といったワードが話題になっています。
1月と3月の感情分析を確認すると、他のキーワードよりも大きくネガティブな感情が増大しています。
▼図13【「ペーパー」を含むツイート数の推移】
▼図14【「ペーパー」を含むツイートのワードクラウド 左:2020年1月 右:2020年3月】
▼図15【「ペーパー」を含むツイートの感情分析結果 左:2020年1月 右:2020年3月】
「建設」
「建設」を含むツイート数の推移から、1月に「建設」を含むツイートが増加し、2月で減少したものの、3月下旬で再度増加していることが分かります。
「建設」においては1月より新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けているのが、ワードクラウドで分かります。1月時点で、中国武漢にて感染拡大した結果、病床が足りないことより臨時で病院が建設されている様子が日本で報道されました。特にその建設の様子を「ライブストリーミング」配信されたことで、「国民」が「監視」できると話題となりました。
一方、3月になると、3月24日に決定した東京オリンピックの延期に伴い、「新国立競技場」や「選手村」の建設に対して振り返るツイートが増加しました。この中には過去の建設過程への「怒り」の感情が多く、結果として1月と比較すると「怒り」の感情が増加しています。
▼図16【「建設」を含むツイート数の推移】
▼図17【「建設」を含むツイートのワードクラウド 左:2020年1月 右:2020年3月】
▼図18【「建設」を含むツイートの感情分析結果 左:2020年1月 右:2020年3月】
「マンション」
「マンション」を含むツイートは、東京オリンピックの延期が選手村マンション「HARUMI FLAG」への入居時期に影響するおそれがあるという報道に対する意見が3月下旬に多く見られました。その結果、ネガティブ感情が増加しているのが分かります。
▼図19【「マンション」を含むツイート数の推移】
▼図20【「建設」を含むツイートのワードクラウド 左:2020年1月 右:2020年3月】
▼図21【「建設」を含むツイートの感情分析結果 左:2020年1月 右:2020年3月】
ポジティブ感情が増加したワード
ポジティブ感情が増加したワードには「お酒」「リース」「ガソリン」がありました。
外出自粛により外での複数人数との飲み会は中止せざるを得ない状況ですが、家の中でも楽しめる娯楽として「お酒」は「愛情」の感情が増加しています。また、「お酒片手に配信をみる」など今の時勢に合わせてエンターテインメントと一緒にお酒を楽しむケースが増加しています。
「リース」は車などの金融のリースではなく、ゲームのキャラクターやアイテムのリースとして語られることが多く、3月に新しく配信、販売されたことも相まって、「お酒」同様、家の中でも楽しめるため「楽しみ」の感情が増加しています。
また「ガソリン」は経済への影響により価格が大幅に安くなったことで、ドライバー達には喜びの感情が生まれているようです。ただし、中には経済への不安を抱えている人も見られました。
「お酒」
「お酒」を含むツイート数の推移を調査した結果、ツイート数には大きな影響は見られませんでした。
具体的に1月と3月のワードクラウドを比較すると、1月は成人の日に起因して「成人式」関連のツイートが多く、一方3月は「お家」「レシピ」「組み合わせ」のような自宅でお酒を飲んだり、アレンジしたりするツイートが増加しています。
また、3月に「お酒」とともにつぶやかれるワードの出現数を調査すると、「配信」や「イベント」という言葉が多いことが分かります。イベントやライブ等の中止に伴い、アーティスト達によるライブ配信が行われている影響であると想定されます。実際に「お酒片手に配信みる。」などのツイートが多く見られました。(エンゲージメントが他のワードに比べて低いため、ワードクラウドには現れない結果となっています。)
さらに、1月と3月の感情分析結果を比較すると、わずかではありますが「愛情」の感情が増加しています。前述のゲーム関連と同様、楽しみが少なくなってしまっているからこそ、家の中でできる楽しいことへのポジティブな感情が強まっていると考えられます。
▼図22【「お酒」を含むツイート数の推移】
▼図23【「お酒」を含むツイートのワードクラウド 左:2020年1月 右:2020年3月】
▼図24【「お酒」を含むツイートの内、出現率が高いワード 左:2020年1月 右:2020年3月】
▼図25【「お酒」を含むツイートの感情分析 左:2020年1月 右:2020年3月】
「リース」
金融についての「リース」のTwitter分析をするにあたり、「車」などに指定せず「リース」を含むツイート全体についても調査をしたところ、結果として玄関等に飾るリースや聖剣伝説のキャラクターのリースについての話題が多くヒットしました。3月に大きなツイートの変化が見られましたので、お伝えできればと思います。
「リース」を含むツイート数の推移では、3月17日よりツイート数が急増しています。これは、3月18日にゲーム「聖剣伝説3」の体験版の無料ダウンロードが開始されたことにより、ゲーム内のキャラクター「リース」のイラスト付きツイートが話題になったことが影響しています。さらに、3月20日発売のゲーム「あつまれ どうぶつの森」内に「リース」を作る機能があり、それぞれのリース作りに関するツイートが多発しています。
これらの投稿により、1月と3月の「リース」に対する感情を比較すると、ポジティブな「愛情」の感情が増加していることが分かります。不安が広がる中、自宅でも楽しめるゲームはポジティブな感情を生み出すことができるものであると言えるでしょう。
▼図26【「リース」を含むツイート数の推移】
▼図27【「リース」を含むツイートのワードクラウド 左:2020年1月 右:2020年3月】
▼図28【「リース」を含むツイートの感情分析結果 左:2020年1月 右:2020年3月】
「ガソリン」
「ガソリン」を含むツイート数の推移を調査した結果、3月下旬以降ツイート数が増加していることが分かりました。3月のワードクラウドを確認すると、「安い」や「ガソリン価格」というワードが出現しています。これは、コロナウイルス感染拡大の影響による情勢変化によってガソリン価格が大幅に下落しているからでしょう。さらに、感情分析で1月と3月を比較してみるとポジティブな感情が増加しています。「安い」ことに対してプラスの感情を抱いている人が多いと考えられます。
▼図29【「ガソリン」を含むツイート数の推移】
▼図30【「ガソリン」を含むツイートのワードクラウド 左:2020年1月 右:2020年3月】
▼図31【「ガソリン」を含むツイートの感情分析結果 左:2020年1月 右:2020年3月】
大きな感情の変化が見られなかったワード
新型コロナウイルスの感染拡大前後で大きな感情の変化が見られなかったワードには、「賃貸」「ファッション」「自動車」「戸建て」がありました。しかし、感情の変化はないものの、「賃貸」「ファッション「自動車」にはツイート内容の変化が見られました。
「賃貸」では特に、APAMAN株式会社が新型コロナウィルス感染症の影響に伴い倒産や人員整理によって寮の退去を余儀なくされた方に対して、賃貸物件を無償提供することが話題となっています。
また、「ファッション」においてはマスク不足によりファッョンマスクの需要が高まっていること、ファッションマスクを手作りする人が増えていることが分かります。「自動車」においては、米国や欧州、日本などの自動車メーカーがマスクや人工呼吸器の製造に着手したことが注目されているようです。
一方、「戸建て」は新型コロナウイルスの感染拡大前後でツイート内容に大きな変化は見られませんが、今後の経済や消費活動の状況により、変わる可能性も十分にあります。
「賃貸」
「賃貸」を含むツイートを1月と3月で比較すると、特にAPAMAN株式会社が新型コロナウィルス感染症の影響に伴う倒産又は人員整理によって寮の退去を余儀なくされた方に対して、賃貸を無償提供することが話題となっています。
新生活に伴う引越しなどの「楽しみ」の感情が1月より減少し、ネガティブな感情が3月に増加しています。
▼図32【「賃貸」を含むツイート数の推移】
▼図33【「賃貸」を含むツイートのワードクラウド 左:2020年1月 右:2020年3月】
▼図34【「賃貸」を含むツイートの感情分析結果 左:2020年1月 右:2020年3月】
「ファッション」
「ファッション」を含むツイート数の推移を調査した結果、コロナウイルス感染拡大の影響による大きな増減は生じていませんでした。ワードクラウドを1月と3月で比較しても、大きな変化は見られません。
一方、「ファッション」とともにつぶやかれるワードの出現数順を調査すると、1月には「開催」「イベント」「参加」「企画」といったイベントに関するワードのつぶやきが多かったのに対して、3月は「マスク」というワードと組み合わせたつぶやきが増加しています。マスク不足に伴い「ファッションマスク」に注目が集まったことが要因と考えられます。
感情分析結果の比較では、1月と3月にほとんど差分はなく、依然とポジティブな感情を抱いている人が多数であることが分かりました。
▼図35【「ファッション」を含むツイート数の推移】
▼図36【「ファッション」を含むツイートのワードクラウド 左:2020年1月 右:2020年3月】
▼図37【「ファッション」を含むツイートの内、出現率が高いワード 左:2020年1月 右:2020年3月】
▼図38【「ファッション」を含むツイートの感情分析結果 左:2020年1月 右:2020年3月】
「自動車」
「自動車」を含むツイート数の推移を調査した結果、コロナウイルス感染拡大の影響による大きな増減は生じていませんでした。(1月のツイート数が多いのは、カルロス・ゴーン氏の報道の影響によるものです。)
3月のワードクラウドを確認すると、「マスク」や「人工呼吸器」というワードが出現しています。これは、医療機器不足の解消を目指し、世界各国の自動車メーカーが「マスク」や「人工呼吸器」の製造に着手したことが話題となった影響によるものです。その他にも、服飾メーカーがマスクを製造するなど、医療現場に求められているものを他業界が製造を始めることが取り上げられました。
感情分析結果を確認すると、1月と3月では大きな変化は見られませんでした。
▼図39【「自動車」を含むツイート数の推移】
▼図40【「自動車」を含むツイートのワードクラウド 左:2020年1月 右:2020年3月】
▼図41【「自動車」を含むツイートの感情分析結果 左:2020年1月 右:2020年3月】
「戸建て」
「戸建て」を含むツイートの分析では、新型コロナウイルス感染拡大の影響は見受けられませんでした。感情分析の比較からも、変化は見られませんでした。
ただし、直近では「おうち時間」が増えたこと、リモートワークが適応してきたことより、一戸建てへの憧れを抱くツイートが増えてきています。今後消費者意識が変わる可能性もあると考えられます。
▼図42【「戸建て」を含むツイート数の推移】
▼図43【「戸建て」を含むツイートのワードクラウド 左:2020年1月 右:2020年3月】
▼図44【「戸建て」を含むツイートの感情分析結果 左:2020年1月 右:2020年3月】
まとめ
新型コロナウイルスは暮らしに関わる多くの事象において、変化を生み出しています。今後の事業戦略も消費者の行動や感情の動きに合わせて、柔軟に変えていくことが必要になるでしょう。
今回の調査では、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、身の回りの多くの「もの」「こと」に対してネガティブな感情が増大していることが浮き彫りになりました。一方で、「家でもできる」ことに対しては、ポジティブな感情が増加しています。自社のビジネスを「家でもできる」形に置き換えることができないか考えてみてはいかがでしょうか。
今回のようにKeywordmap for SNSでは、ツイート数の増加だけではなく、具体的なツイート内容の変化や消費者の感情の移り変わりにいち早く気づくことができます。毎日社会状況が変化する今だからこそ、是非自社ビジネスへのユーザーの変化を分析する際にご活用ください。