リスティング広告やSNS広告などのWeb広告を新規で開始する際、どこから手をつけたらよいか困ってしまう方も多いと思います。
訳もわからずいきなりアカウント・キャンペーンの作成やリスティング広告の出稿キーワードの洗い出し、広告文の作成からスタートしてしまうケースもあるのではないでしょうか。
しかし、それでは多くの競合サイトに埋もれたり、誤った方向性に突き進んでしまう可能性があります。そのような事態を避けるためには、「競合調査」を実施する必要があります。弊社でもWeb広告出稿の方針決定やアカウント構築を行うにあたって、広告領域における競合調査を行います。
この記事では、Webの広告運用における競合分析のやり方と調査のポイントを説明します。慣れれば1日程度で実施可能な簡易な方法ですが、競合調査を行わないままスタートするよりは良い状態で広告運用を開始できるはずです。
競合調査の目的と重要性
Webの運用型広告で競合調査を行う目的は、大きくは下記2つが挙げられます。
☑成功しているサイトの戦略・手法を参考にする
☑やるべき訴求軸・避けるべき訴求軸を見つける
成功しているサイトの戦略・手法を参考にする
予算配分・訴求・出稿キーワード等、広告出稿における競合の戦略や手法を調査することで、自社がとるべき戦略・手法の参考にすることができます。
競合がどのような媒体にどのくらいの費用をかけて出稿しているのか、どのような訴求を行っているのか等、競合の広告運用を参考することによって、自社の広告運用のおおよその方向性が見えてきます。
運用型広告においては運用の成果を見ながら細かいチューニングが必要になりますが、競合調査からヒントを得た状態で「大体の正解地点」からスタートするのと、まったく知見のない状態からスタートするのとでは、成功確率や成果創出までの時間に大きく差が生まれるでしょう。
大きく誤った方向性でスタートすることを避けつつ、自社の方向性を定めるために、成功しているサイトの戦略・手法を参考にすることが競合調査の目的の1つです。
やるべき訴求軸・避けるべき訴求軸を見つける
競合の広告においてどのような訴求が行われているかを調査することで、自社における訴求軸のヒントを得ることができます。
例えば、保育士専門の求人サイトの競合調査を行うと想定します。
とある競合サイトの出稿クリエイティブを見ると、高給や福利厚生が充実した案件が多
いことを訴求するクリエイティブが多い一方、「急募」「○ヶ月以内で転職したい方」「○月入社」のような「すぐに仕事が始めたい」というニーズと、それに応える訴求も多く見つかります。
データ出典:Keywordmap
初めて専門求人領域のマーケティングや広告運用を行う方にとっては、なかなか思いつきづらいニーズ・訴求ではないでしょうか。
このように競合調査を通じて、自分の頭の中では思いつきづらいニーズや訴求を見つけることができます。
逆に、競合調査を通じ、勝てる見込みが低い訴求軸、不要な訴求軸を見つけることも重要です。
文字数の縛りがある中で、競合より明らかに訴求内容が劣った広告文を入れるのは得策ではありません。
例えば、競合が「低価格」を訴求していて、競合が1,000円、自社が2,000円ならば、自社はあきらかに劣位であり、低価格での訴求は難しいことがわかります。
運用型広告では、クリエイティブは複数出稿することができるので、予め訴求軸を絞りすぎることなく、A/Bテストを行いながら定量的に取捨選択していくことも可能です。しかし、勝てる見込みが低い訴求軸をあらかじめ把握して、ある程度見立てをつけて優先度を決めることでテスト・検証の効率化を図ることができます。
競合調査の方法と自社戦略への活用の仕方
本格的に広告出稿を開始する場合の具体的な競合調査の方法と自社の広告運用における戦略策定への活用方法を説明します。
GoogleやFacebook等の媒体から提供される情報を使って競合調査をすることもできますが、一部の代理店や広告主以外の方にとっては難しい方法でしょう。ここではツール等を使って誰でも比較的容易に実行できる方法を紹介します。
弊社で行っている競合調査の方法のうちの1つではありますが、参考になれば幸いです。
※以下は保育士求人サイトの広告出稿を検討していると仮定して説明します。
競合調査におけるポイントは大きく下記3つです。
☑どのような媒体にどのくらいの広告を出稿しているのか
☑どのような層に対して広告を出稿しているのか
☑どのような訴求を行っているのか(どのような訴求は避けているのか)
これら3つのポイントに沿って調査を進めます。
競合サイトの策定
まずはどのサイトを競合として設定し、調査対象とするかを決定する必要があります。調査を実施する対象は、業界や求められる調査の精度に応じて決めれば良いですが、弊社ではビジネス競合の中から3~5社程度を分析することが多いです。
特に競合サイトの見識がない場合は、GoogleやFacebook、求人領域であればIndeedなどの媒体で検索して、よく広告が出てくるサイトを競合として設定すると良いでしょう。
出稿媒体を推測・調査
次に競合がどのような媒体に広告を出稿しているかを調査します。
大きく下記4つの方法を使って出稿先を推測します。調査精度の観点から、どれか1つの方法を使うというより、4つを組み合わせて出稿媒体を調査します。
☑Chrome/Firefoxのプラグイン「Ghostery」を使ってトラッカー情報を抽出する
☑Facebookの「広告ライブラリ」やTwitterの「広告の透明性センター」のような媒体提供のツールを用いる
☑KeywordmapやSimilarWebのような3rdパーティツールを用いる
☑目視で確認する
Chrome/Firefoxのプラグイン「Ghostery」を使ってトラッカー情報を抽出する
Ghosteryというプラグインを使うと、特定のサイトで「アクセス解析」「ソーシャルメディア」「広告」に関するトラッカー情報を取得することができます。
このトラッカー情報から配信している広告媒体を確認することができます。
上記ではGoogleやYahoo、Facebookをはじめ、Criteoなどの媒体で広告を出稿していることを確認できます。
Ghostery - Chrome
Ghostery - Firefox
https://addons.mozilla.org/ja/firefox/addon/ghostery/
Facebookの「広告ライブラリ」やTwitterの「広告の透明性センター」のような媒体提供のツールを用いる
FacebookやTwitterが提供しているツールを用いることで、競合がFacebookやTwitterで広告を出稿しているかどうかに加え、どのような広告を出稿しているかも把握できます。
【Facebookの広告ライブラリ(https://www.facebook.com/ads/library/)】
上記ページでサイト名やFacebookページの名前を検索します。広告を出稿している場合、出稿中の広告一覧が表示されます。
このサイトでは画像広告、カルーセル広告、動画広告など、Facebookで多くの広告を出稿しているとわかりました。
【Twitterの広告の透明性センター(https://ads.twitter.com/transparency )】
上記ページからサイト名やTwitterアカウントの名前を検索します。広告を出稿している場合、出稿されている広告一覧が表示されます。
今回の調査対象のサイトでは直近はTwitter広告を出稿していないようです。
KeywordmapやSimilarWebのような3rdパーティツールを用いる
KeywordmapやSimilarWebのようなツールを用いて、各広告媒体からのトラフィックおよび出稿の有無を確認することができます。
【Keywordmap】
KeywordmapのPPC広告ワード機能を使うと、Googleリスティング広告の出稿有無と、おおよその出稿額がわかります。
データ出典:Keywordmap
【SimilarWeb】
SimilarWebを用いると、様々な流入元からどの程度のトラフィックを獲得しているかがわかります。
データ出典:SimilarWeb
このサイトではGoogle、Yahoo等の主要媒体をはじめ、Indeedや求人ボックス等の求人メディアからのトラフィックも確認できました。
目視で確認する
上記3つの方法でおおよその出稿媒体は特定できるものの、完全ではありません。
例えばトラッキングタグは埋め込んでいるものの、最近は出稿していないというケースや、SimilarWebではリファラルとして計測されていても実際には広告経由であるケースもあります。そのため、出稿が想定される媒体については確認の意味も含めて、目視で検索して調査することが大切です。
予算配分の調査
出稿媒体がおおよそ判明したら、各媒体の予算配分を調査します。
競合の予算配分を正確に調査することは難しいものの、おおよその配分を推測することは可能です。広告運用に注力する競合の場合は、各媒体の成果(CPAやCV数等)に応じて予算配分も最適化しているものと想定されるため、その予算配分を調査することで、自社運用の参考にすることができます。
媒体ごとの予算比率を推定する
具体的な方法としては、SimilarWeb等の3rdパーティツールを用いて、各媒体のトラフィックの比率と、媒体ごとのおおよそのCPCから、広告費の配分比率を推測します。
各媒体のCPCは、キーワードプランナー(リスティング広告のみ)等のツールや対象アカウントの実績値、類似カテゴリのアカウントの実績値などから算出します。難しい場合は、トラフィック情報のみを使用して算出しても問題ありません。
集計例
上記で競合5サイトの出稿媒体および予算比率が推測できました。
全体的な傾向として、リスティング広告やIndeedへの配分が多く、リスティング広告内でもYahooよりもGoogleへの比重が大きいことがわかります。また、FacebookやTwitter、求人ボックス広告での出稿は一部サイトを除いて未実施のようです。
競合サイトの出稿状況から、自社で運用する際はGoogleリスティングやIndeedでの出稿を中心にしつつ、TwitterやFacebook、求人ボックスに少しずつ拡大方針が考えられます。もしくはTwitterやFacebook、求人ボックスを競合が力を入れていないブルーオーシャンとして捉え、初期から注力していくという方針も検討の余地はあるでしょう。
注意点として、SimilarWebのトラフィックやCPCの絶対値は必ずしも正確ではありません。上記予算の絶対値を過信せずに、各サイトの媒体ごとの予算比率は参考にする程度に留めましょう。
なお、Keywordmapを使うことで、Googleのリスティング広告におけるおおよその広告費用がわかります先の比率のデータと突き合わせれば、各媒体の予算の絶対値を算出することが可能です。
Googleトレンドを使って季節性を把握する
領域によっては時期や季節ごとに商品やサービスの需要が大きく変化します。年間で広告費が決まっている場合、需要が多い月は予算を多めに、需要が少ない月は予算を少なめにするなど、調整が必要です。
予算調整にあたっては、Keywordmapで抽出できる競合の予算配分などを参考にしながら、対象領域における主要キーワードのGoogleトレンドの推移や キーワードプランナーを用いた検索Volの推移を元に、季節性による需要の変動を把握します。
データ出典:Keywordmap
データ出典:Googleトレンド
調査の結果、保育士の求人の需要期は1~3月と10~12月、逆に閑散期は大型連休のある5月や7~8月頃とわかりました。そのため、年間の広告費の配分は需要期は通常期より5~20%多めに、閑散期は通常期より5~20%少なめに予算を設定するといった調整が考えられます。
媒体および月次の予算配分を決定する
予算配分の調査結果をもとに、媒体ごとおよび月ごとの予算配分を決定します。
実際の広告運用においては、成果に応じて随時チューニングを行うことが前提となります。理想的な予算配分はサイトやサービスの認知度等に応じて異なり、変化もします。そのため、初期段階では正確な数値を出すというよりも、自社の理想的な予算配分からの大きな乖離を避ける(より近い状態からスタートできる)ために、競合の予算配分を参考にします。
ターゲットの調査
次に競合がどのようなターゲットに対して広告を出稿しているのかを調査します。
広告クリエイティブから、ターゲット層を推測
正確なターゲティングの特定は難しいものの、広告クリエイティブからどのような層に向けて広告を出稿しているかを推測することは可能です。
通常の広告運用においては、複数のターゲットに向けて複数の広告を出稿することが多いため、複数のクリエイティブを網羅的に見る必要があります。
実際にGoogleやYahooで検索をしながらクリエイティブを確認する方法でもよいですが、KeywordmapやFacebookの広告ライブラリ等のツールを使うと一括でクリエイティブを見ることができるので効率的に調査を行えます。
また、後述する「クリエイティブの調査」を同時に行うと良いでしょう。
出稿キーワードの調査
続いてリスティング広告におけるキーワードの調査ついて説明します。
通常、リスティング広告において軸となるキーワードの選定などは、実際のCVデータやキーワードプランナー等を用いてユーザーの行動や心理を考慮しながら検討します。
しかし、上記の方法だけではキーワードの漏れが発生してしまい、機会損失が発生する可能性があります。そのため、自社の出稿キーワード候補に漏れがないかの確認や、キーワードを膨らませるために競合の出稿キーワードを確認します。
KeywordmapやSimilarWebを使うと、競合の出稿キーワードを容易に確認することができます。
例えば、下記のように競合の出稿キーワードを見てみると、「保育士 求人」「東京 保育士 転職」のような直接的なキーワード以外にもさまざまなキーワードが見られます。
☑「アルバイト」のような雇用形態キーワード(ライフステージにあった働き方を探している)
☑「やめたい」のようなネガティブ系キーワード(間接的に転職に繋がる可能性がある)
☑「児童館」のような特定の施設に絞ったキーワード(仕事内容にこだわりがある)
☑「25万」のような労働条件を設定したキーワード(特定の条件にこだわりがある)
☑「求人情報」「募集」「採用」のような「求人」「バイト」の言い換えキーワード
このように各競合サイトの出稿キーワードを調査することで、考慮漏れを限りなく少なくすることができます。
クリエイティブの調査
次にクリエイティブの調査を行います。
競合がどのような訴求軸・クリエイティブを打ち出しているかを調査する
競合のクリエイティブ調査の方法として、大きく2つの方法があります。
☑実際に検索して競合のクリエイティブを見る
☑ツールを使って競合のクリエイティブを分析する
方法はどちらでも構いませんが、ツールを使って調査するほうが効率的です。
ツールを使用する場合は、リスティング広告やディスプレイ広告はKeywordmap、FacebookやTwitterについては上述の広告ライブラリや広告の透明性センターを使います。
複数の競合サイト、複数の媒体を調査することで、多くの訴求軸を見つけることができます。
自社でどのような訴求軸・クリエイティブを打ち出すかを検討する
競合調査から、自社で出稿する際の訴求軸の候補となるものを一覧化し、具体的なクリエイティブに落とし込みます。候補となる訴求軸は、運用段階で実際に広告を出稿して成果を比較しながら、有効な訴求軸とそうでない訴求軸を見分けていきます。
あわせて訴求軸・クリエイティブの検証の効率化のため、競合調査で不要または優先度が低い訴求軸に目星をつけておくことも重要です。
訴求軸の整理例
まとめ
今回はWebの広告運用における競合調査の目的・重要性と、ツールを使った具体的な競合調査の方法について紹介しました。
競合調査はさまざまな方法がありますが、Web広告を含めてマーケティングを実施する上で、競合の分析は避けては通れない工程です。
厳密・詳細な競合調査をしようとすると、かなりの時間がかかってしまいますが、上記の方法であれば慣れれば1日程度で実施可能ですので、リソースに余裕のない方でも業務に取り入れやすいのではないでしょうか。
ご参考になれば幸いです。