指名キーワードのリスティング出稿可否判断を定量的に行う方法

自社ブランドの指名キーワードでリスティング広告を出稿すべきか否かについては、業界内でも様々な意見や考え方があり、人によって意見が分かれることが多いテーマです。

なんとなく出稿しなかったり、感覚的に出稿額を決定している広告運用担当の方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、感覚ではなく、しっかりと定量的な根拠に基づいて出稿可否を判断する方法について、弊社の考え方をご紹介します。

記事前半では、指名キーワードの広告出稿における一般的な議論や考え方をまとめました。記事後半では、弊社での2つの運用事例を用いて、「検索エンジン全体でのクリック数やコンバージョン数の実質的な増加値」という考え方をもとに、広告出稿可否や出稿量を判断するプロセスをご説明しています。

指名キーワードでの広告出稿可否および出稿量の決定を論理的に行い、検索エンジンからの利益最大化のためのヒントになれば幸いです。

指名キーワードをリスティング広告で出稿すべきか

ここでは指名キーワードのリスティング広告出稿の基本と様々な議論を簡単にまとめます。

▼指名キーワードとは

指名キーワードとは、広告主の社名やサービス名を含むキーワードのことです。
例)
指名キーワード:株式会社CINC、キーワードマップ
一般キーワード:データ分析ツール、SEO分析

自社や自社商品・サービスの名前を知っているユーザーが、興味を持って社名や商品名を指定して検索するのですから、一般キーワードと比較するとクリック率やコンバージョン率が高く、コンバージョン単価が低くなる傾向があります。

一般キーワードと比べて効率よくコンバージョンを獲得できるキーワードと言えます。

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※指名キーワードと一般キーワードの各指標イメージ(データはサンプル)

▼指名キーワードのリスティング広告出稿についての議論

指名キーワードのリスティング広告出稿については、昔から多くの議論があります。

●よくある疑念

「指名キーワードのリスティング広告出稿は不要」という意見で、よく挙げられる理由をまとめます。

・出稿しなくてもオーガニックでクリック・コンバージョンを獲得できる

指名キーワードの場合、オーガニックで1位を獲得していることが多いです。そのため、「リスティング広告出稿をしなくても、オーガニックだけで十分なのでは」という意見もあります。

オーガニックで1位を獲得していたとしても、リスティング広告出稿により検索結果画面の最上部にはリスティング広告が掲載されるので、オーガニックから広告にクリックが流れてしまうことがあります。それにより、無駄な費用が発生してしまうことがあります。

・イレギュラーやマイナスの原因でのクリック増加

テレビ番組に取り上げられるたり、SNSで話題になったりすることで、一時的に指名キーワードの検索数が増加することがあります。このような検索は、興味本位であることも多く、コンバージョンに繋がらない無断なクリックが多数発生することがあります。また、SNSで炎上するなど、マイナスな要因での検索およびクリックが増加し、無駄な費用が発生してしまう可能性もあります。

・これらの疑念の対応

上で挙げた疑念はもっともであり、正しいと言えます。しかし、いずれの疑念に対してもより詳細な検証を行った上で指名キーワードのリスティング広告の出稿可否を決定する必要があります。

「出稿しなくてもオーガニックでクリック・コンバージョンを獲得できる」は、「どの程度のクリック・コンバージョンをオーガニックだけでカバーできるか」を検討する必要があります。指名キーワードでオーガニック1位を獲得している場合、業種や自社・競合の指名キーワードでの出稿状況にも左右されますが、一般的に6o~70%程度のクリック率になります。最もクリック率が高くなる、自社、競合ともに広告出稿がほとんどないケースであっても70%台です。

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上記の通り、検索結果画面上から獲得可能なすべてのクリックをオーガニックだけで獲得できることはありません。言い換えると、リスティング広告出稿により、検索結果からのクリック数の総量は増加し、コンバージョン数も増加します。その増加したコンバージョンを獲得するためにどの程度の費用を掛けたのかを検証し、指名キーワードのリスティング広告のパフォーマンスを評価する必要があります。

「イレギュラーやマイナスの原因でのクリック増加」については、広告管理画面やSNS等での自社に対する言及などをリアルタイムでチェックし、問題が発生すればすぐ広告の一時停止等の対応を取ることができる体制を構築しておけば、致命的な問題は回避することができます。

また、これらの疑念以上のメリットがあると考えています。そのメリットについて説明します。

●指名キーワード出稿のメリット

指名キーワードのリスティング広告出稿には多くのメリットもあります。細かいものも含めると多数ありますが、ここでは主たるメリットに絞って説明します。

・競合への流出阻止

競合他社や業界のポータルサイト等が、指名キーワードでリスティング広告を出稿している場合があります。

この場合、オーガニックで1位を獲得していても、Googleの検索結果画面で最上位に表示されるのは競合他社のページになってしまい、指名キーワードでの検索ユーザーが他社に流出してしまう可能性があります。

競合の自社指名キーワードの出稿に関しては、運営企業に対して出稿停止を要請することも可能です。しかし、GoogleやYahoo!は他社の指名キーワードでの出稿を制限していないため、応じてもらえるかどうかは相手次第です。

Googleの言及

https://support.google.com/adspolicy/answer/6118?hl=ja

キーワードとしての商標の使用については、Google の調査や制限の対象となりません。

 

Yahoo!の言及

https://marketing.yahoo.co.jp/guidelines/tmrestriction.html

キーワードは、本申請による制限の対象外です。

 

もし競合の出稿を阻止できない場合、指名キーワードでリスティング広告を出稿しておくことによって、指名キーワードの検索結果の最上位を占有することができ、競合他社への流出を防ぐことができます。

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・掲載面拡大によるクリック率向上

オーガニック1位を獲得していて、かつ競合がリスティング広告を出稿していなかったとしても、リスティング広告出稿で掲載面拡大による視認性向上によって、クリック率が向上するメリットがあります。

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・リンク先URLを明示的に指定することで、提供情報をコントールし、コンバージョン率が高い状態を維持できる

リスティング広告は、出稿キーワードごとに、キーワードに応じて適切なリンク先ページを設定することができます。ユーザーのニーズやモチベーションを考慮して、適切な情報を提供するページに誘導できます。

一方で、オーガニックの場合は意図しないページがヒットする可能性があります。特にSEO施策を十分に実施していない大規模サイトで発生するケースが多いです。ユーザーのニーズやモチベーションにそぐわないページに誘導されるため、離脱率が高くなる可能性があります。

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・ネガティブな情報、ページを押し下げる

少し特殊なケースではありますが、指名キーワードのオーガニック上位にネガティブな評判や口コミが掲載されているページが掲載される可能性もあります。

そのような際に、リスティング広告を出稿することで、「実質的な」順位を下落させ、相対的に目立たせなくすることができます。

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▼GoogleとYahoo!による過去の調査データ

少し古いデータで、かつ指名キーワードに限った情報ではありませんが、GoogleやYahoo!がそれぞれの公式サイト・ブログで、オーガニックで上位を獲得していても、リスティング広告を出稿すべき理由をデータで示しています。広告媒体からの情報ということを差し引いても、注視すべきデータと言えます。

Googleから引用

https://ai.googleblog.com/2012/03/impact-of-organic-ranking-on-ad-click.html

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Yahoo!から引用

https://yahoojp-marketing.tumblr.com/post/130031947858/20150928

スポンサードサーチを利用しない場合、オーガニック検索からだとPCではスポンサードサーチの獲得数の64%、スマートフォンでは23%しか補えないという結果

 

いずれのデータでも、リスティング広告を出稿停止すると、クリック数は大きく減少することが示されています。「オーガニック1位だから」というだけで安易にリスティング広告を停止すべきでないということがわかります。

▼基本的な考え方

あらゆるケースに適用できる共通解はありませんが、一般的には指名キーワードの出稿のメリットは大きく、一定額は出稿を維持したほうが良いケースが多いように思います。

「よくある疑念」にあげているような懸念はありますが、量・程度の検証と、リスク回避のための体制構築により、大きな問題は回避できるでしょう。

指名キーワードの広告出稿によるコンバージョン数や売上の増加と、費用を天秤にかけた上で、対象領域における検索結果の状況を踏まえてケースバイケースで検討する必要があります。

例えば、自社や自社サービス・商品の認知拡大フェーズであれば、コンバージョン単価が多少悪くても積極的に広告出稿すべきというケースもあるでしょう。

また、キーワード領域によって検索結果が大きく異るため、競合が指名ブランドで全く出稿しておらず、かつオーガニックでも1位獲得している等の条件を満たしていれば、出稿しなくても良いケースもあり得えます。近年は強調スニペットのリッチ化等、検索結果が多様化しており、複雑性がより増しているため、個別での検証がより重要になります。

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ここからは弊社の事例を用いて、指名キーワードのリスティング広告出稿による影響を見ていきます。

弊社事例

ここでは、弊社での事例を用いて、指名キーワードのリスティング広告出稿の有無によってどの程度の影響が発生するかを見ていきます。

▼前提と考え方

●前提

当調査は下記3つの前提があります。

  • 本事例はGoogleの検索結果画面、すなわちGoogleのオーガニック検索およびGoogleリスティング広告が対象であり、Yahoo!やBing等の他の検索エンジンとは状況が異なることがある
  • 簡便化のため、指名キーワードのリスティング広告出稿による、ブランド認知・形成等の間接的な影響は考慮せず、あくまでクリック数やコンバージョン数等の直接的な影響のみを考慮する
  • SEO施策やリスティング広告以外のマーケティング施策の影響による数値変動も完全には排除できていないが、可能な限り影響が小さい時期と方法を選択

・指標定義

説明のため、下記表記を用います。

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●考え方

リスティング広告を出稿することで、オーガニックで獲得していたクリックの内の一部がリスティング広告に流れます。その結果、オーガニックCL数・CTRは低下しますが、SEM CL数・CTRは向上するケースが一般です。しかし、どの程度リスティング広告に流れるのかはケースバイケースであり、その程度によって、リスティング広告出稿の必要性や広告費の必要量・許容量が異なります。

リスティング広告出稿により増加したSEMの増分CL数から得られる増分CV数と、それをベースにしたCPA(実質)を用いて、出稿すべきかどうか、どの程度出稿すべきかを検討します。通常、広告出稿量を増やせば、増分CL数、増分CV数は増加しますが、CPA(実質)が高騰するので、どこまで増やしても良いかは各指標(必要CV数・売上・利益、一般ワードCPA、顧客売上単価 等)との兼ね合いで検討します。

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▼ケース1:クリニック系サイトの事例

ここではクリニック系サイトの事例を紹介します。

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※グラフはウィークリー

 グラフの通り、リスティング広告出稿開始に伴い、SEM CL数およびCV数は70%増加しています。それ対してオーガニックCL数およびCV数は31%下落しています。

この場合、指名キーワードでの実質的なCPA(CPA(実質))は単純な管理画面ベースのCPAよりも約42%高くなります。指名キーワードでリスティング広告出稿可否を検討する際は、CPA(実質)で評価すべきでしょう。

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※CPAの実数値は加工しています

 このケースでは実際は一般キーワードのCPAおよび顧客売上単価を大きく下回っていました。

また、リスティング広告出稿後の増分CL数・増分CV数が、次に紹介するケース2と比較すると大きいです。言い方を変えると、リスティング広告を出稿しないことによるCL数およびCV数の減損が大きいということになります。

これは、当クリニック名で検索した時の検索結果に起因するものと想定されます。下記のように広告枠が3~4枠表示され、競合他社も広告を出稿している状態のため、リスティング広告を出稿しない場合オーガニックで1位を獲得していても実質的な順位は4~5位になります。リスティング広告を出稿しないと検索結果における視認性が大きく低下するため、競合への流出が発生し、CL数が大きく減少しやすいと言えます。 

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当事例においては、CPA(実質)が許容できるCPAよりを大きく下回っていたこと、リスティング広告出稿によるCL数・CV数の増加の効用が、広告費よりも大きいと判断し、指名キーワードに対する広告費増量を実施しました。

▼ケース2:エンタメ系サイトの事例

ここではエンタメ系サイトの事例を紹介します。f:id:cinc_analytics:20200526123528p:plain

※グラフはデイリーのデータ

グラフの通り、リスティング広告出稿開始に伴い、SEM CL数およびCV数は6%増加しています。それ対してオーガニックCL数およびCV数は29%下落しています。

この場合、指名キーワードでの実質的なCPA(CPA(実質))は単純な管理画面ベースのCPAよりも16倍高くなります。ケース1と同様、指名キーワードでリスティング広告出稿可否を検討する際は、CPA(実質)で評価すべきでしょう。f:id:cinc_analytics:20200526123604p:plain

※CPAの実数値は加工しています

このケースでは自体は一般キーワードのCPAとほぼ同値であり、指名キーワードのCPAとしては少し高い状態でした。

また、この事例では、リスティング広告出稿後のCL数の増加が、先に紹介したケース1と比較すると小さいです。言い方を変えると、リスティング広告を出稿しないことによるSEM全体でのCL数およびCV数の減損が小さいということになります。

これは、当サイト名で検索した時の検索結果に起因するものと想定されます。下記のように競合はリスティング広告を出稿しておらず、かつオーガニックで1位および2位を獲得しており、1位はリッチリザルトが表示された状態です。リスティング広告を出稿しなくても、検索結果画面上での視認性が高い状態にあるため、CL数はあまり減少しないと言えます。

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当事例においては、CPA(実質)が許容できるCPAが上限値に近く、リスティング広告出稿によるCL数・CV数の増加の効用が、広告費よりも小さいと判断し、指名キーワードに対する広告費削減を実施しました。

まとめ

指名キーワードでの出稿可否や出稿量は、感覚的に決められることも多いと思います。

しかし、オーガニック含めた検索エンジン全体でクリック数やコンバージョン数の「実質的な増加」はどの程度かを算出した上で、広告費との費用対効果を見る必要があると考えます。

より厳密な分析にはブランド認知・形成等の間接的な影響や、SEOやリスティング広告以外の施策の影響も考慮すべきですが、当記事の内容は簡便のため、あくまでダイレクトなクリック・コンバージョン獲得の成果のみを検証対象としています。

また、今回は題材として「指名キーワード」を取り上げましたが、指名キーワードだけではなく、一般ワードでもオーガニックで1位を獲得しているようなキーワードでも同じことが言えます。

広告費削減の目的で、安易に指名キーワードの出稿を削ると、売上に大きな影響を及ぼしかねません。

簡易でも良いのでどの程度の影響がでるのかを事前に検証した上で、その影響を許容できるのであれば出稿停止を検討するのが重要です。

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https://www.cinc-j.co.jp/analytics/